十時からの世界、PART2

そして、高校生になったある日、私はパパに会いたいって言ったんだ。
パパは、会う気とかは全然全くこれっぽちも考えてなかったらしく
相当に躊躇したみたいだった。
何度も本気か?って聞きなおしてたし、なんだか可笑しいよ。

だって、普通なら女子高生の私が会いたいって言われて躊躇するのが普通じゃない?
ほんとに会って豹変されたら怖いけど、そんな事はありえないって確信してた。
物騒な時代だけど、パパだもん。

始めてパパと会って、お互いなんだか照れくさくて会話にならないんだよ。
カーステの音楽聴いて、ちょっと話してまた黙る。
あ、パパはアルバム持ってきてくれて見せてくれたんだ。
若いときからの写真見ながら、なんだかパパの人生楽しすぎだな~って!

ちょっと豪華なホテルのレストランでご飯食べて
ドライブして、いろんなお話して、ステキなステキな時間だったんだよ。
帰る時も、あんまり遅くならないように気をつかってくれたけど
ほんとはもっと一緒にいて、いろんなお話をしたかったんだ。

あ、ママにはね、もちろんちゃんと言ってあったよ。
だから心配は心配だろうけど、特別何も言われなかった。


そんなこんなで始めて会って、パパはやっぱりパパだったってのが感想かな。
パパはお友達があんまりできない私に一生懸命教えてくれた。

ちびまるこちゃんとたまちゃんを例に出して、解説してくれたんだ。
そこで何よりも心に残ったのはね、
絶対的相互間の信頼がないと、お互いに親友とは呼べないって事。

それは、男女間での愛もそうだって事。
その為にはね、心を開かないといけない。じゃないと、通じ合えないって事。
私は、今までどうしても自分の心を殻に閉じ込めてしまって
友達と上手く行かなかったんだ。

それは、相手の心は知りたいのに私は相手に決してみせなかったからなんだ。
無意識に、見せたくないって、見せたら負けって思い込んでた。
だから、どうしても友達とうまくいかなかった。おかげでハバにされていじめられたりもした。
なんとかしなきゃって思ってたんだよ。でも、そんな難しい事はできないって決め付けてた。

だから、パパにそんな事できたら苦労しないよ~(笑)って言ったんだ。
そしたらパパ、大真面目な顔して一言言ったんだよ。
『チャットだと、できてるじゃん!』って。

私、ほんとびっくりっていうか、あ~出来てる。なんでだろう?って考えたんだ。
人間相手だと、上手くできないのにパソコンからだと、素直な気持ちで書けるんだって。
でね、今、パパ相手に素直な気持ちでちゃんとできてるじゃないって言われたんだ。
不思議~!全然意識してなかったけど、できてるんだよ!

「なんていうかね、ほんとに友達ほしいなら、さらけださないとできないよ」
じ~っとパパの顔見ながら、大人はやっぱり一味違うな~って冷静に感動したよ。
「いい面も、悪い面も、だめな面も全部ね、そういうのが全部集まったのが優子なんだよ、
全然かくさなくてもいいんだよ、それを全部わかった上じゃないとやっぱり親友になんて
とても思えないし、隠されてるような人をそうは思えないよ、そうじゃない?」

そうなんだよね、どうして今までできてなかったんだろう?

「かっこなんかつけなくていいんだよ!ありのままの自分を素直に出せばいいんだ。
 社会に出たらね、そんな事はできないんだ。だけど、学生時代はありのままでいいんだよ」

『どうして?どうして社会に出ると出来ないの?』

「社会に出るとね、どうしても利害関係になるんだ。同僚だって出世争いあるし、
 取引先なら、売る側買う側で、当然立場に強弱が出てくるよね。
 だけど、学生時代は、利害関係などなく、お互いに励ましあって本音で語れるんだよ。
 ほんとに親友って呼べるのは、学生時代からの友達なんだ。」

「それは、パパの実感なの?」

「そうだね、だからね、高校では素直なままの優子で友達に接して、いいお友達を見つけてほしいよ」

「できるかな~?」

「できるよ!素直な優子を嫌われてもいいじゃない。そういう優子を好きって言ってくれるこもいるよ
 無理して自分に鎧まとって、そんな優子を好きって言ってくれても、後でつらいだけだよ。
 変な子って言われてもいい、例えたった一人でもお互いに親友って思えるなら
 それこそが人生最大の宝物なんだよ!他の子にどう思われたってかまやしないよ」

「そういうものかな~、でもなんとなくわかるよ!」

「パパだってね、アニメおたくだけど、好きなんだから馬鹿にされたって構わないよ」

「いや、それはちょっと恥ずかしいよ」

「でも、優子はパパを否定したりしてないじゃない。しかたないな~ってどこかで思ってるでしょ」
「うん、まあ仕方ないとしか言いようがないもんね(笑)」

「でね最後にはね、相手を思いやるって事ができるかどうかが最大の問題なんよ」
「どういうこと?」
「親友が困った時にね、ちゃんと親友の立場で思いやってあげれるか?そばにいてあげれるか?って
 そういう事だよ」

「パパ、それはね私わかる、いじめられた時に庇ってもらったときにほんと思った事ある」
「一番困った時にね、そばにいてあげれるってのは大事だよ、そういう積み重ねが
 お互いの信用信頼になってくるんだ。」
「ふ~ん、なんとなくわかるよ」
「人間っていうのはね、結構孤独な生き物なんだよ」
「どういう事?」

「動物だとさ、群れを成して生きていくのとか、単独で生きていくのとかあるじゃない!」
「うん、いろいろあるね」
「でもね、人間ってどっちでもないと思わない?」
「う~ん、よくわかんないよ」

「家族って、普通は親子だよね」
「そうだね」
「例えばさ、アフリカとかジャングルとかで今でも生きてるなんとか族って人達って
 みんな集団なんだけど、どうして集団で生きてるんだろうって思った事ない?」
「あ~、たしかにみんな大家族で集団ばっかりだよね」

「でね、男の仕事や女の仕事ってもう不思議と決まってるよね」
「うんうん」
「文明が発達してさ、生活は洗濯一つとっても楽になったけど、経済活動が今みたいになってくると
 人は段々とね、孤独になってきてるとパパ思うんだよ」
「う~ん、そうなのかな~」

「学校でいじめって問題があるよね」
「うん、あるね」
「ない学校なんてないよね」
「ないよ」

「じゃあなんとか族の暮らしでいじめはあるだろうか?」
「なさそうだな~」
「仮にあっても、ちゃんと仲直りしてかないと生きてくけないよね」
「世間が狭いからそうだろうね」

「現代って世間が広すぎだよね、飛行機あるし、携帯電話あるし、なんでもある」
「うん、なんでもあるね」
「お金さえあれば、遠くの人にだって飛行機乗ってすぐ会えるし、話したければ電話できる」
「便利な時代なんだよ」

「だけどね、寂しくなってるんだよ、そう思わないかい?」
「う~ん、わかんないよ」
「みんな今の子は、携帯電話なしだと生きてられないんじゃないかとさえパパ思うよ」
「確かにないじゃ困るよね」

「でもね、なくていいんだよ」
「え?」
「そんなのに頼らなくても生きていけるんだよ」
「でも不便だよ」

「そう、便利さを得た代わりに、何かを失ってきてるんだね」
「それが寂しさなの?」
「うん、虚しさが増してるって言ってもいい」