primrose 夢じゃないのか?

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やっと長い冬が終わりかけ早春を迎えたようなまだ肌寒い夜の日の事だった。
その日、僕はとっても気分が悪かったのだ。
まっすぐ家に帰る気もなく、さりとて繁華街のネオンをくぐる気にもなれず
裏通りの飲み屋街を僕はあてもなく歩いていた。

その時、ちょっとこ綺麗なちいさな居酒屋の看板が目に入ったのだ。
僕は店の名前をじ~っと見ていた。『英語???』
居酒屋なのになんで英語の店なんだ?
それは、ほんの2・3分くらいだった気がしる。

いきなり店の引き戸ががらがらって開いてさえない親父が二人出てきた。
そのあとから、見覚えのある顔の女の人が出てきて
さえない親父達を送り出している。

それから呆然と立ち尽くしている僕を見て、彼女もまた僕に気づいたようだった。


その日、僕が不機嫌だったのは、会社での出来事がそうさせたのだ。
一つの店を任されるようになってもう数年も過ぎて頑張ってきた。
だけど、部下の一人が商品を横流ししていることが発覚したのだ。

僕の会社は、業務上危険な薬品も扱っているゆえ、
こんな事は絶対に許しがたい事だった。
それをよりにもよって、自分のこずかい稼ぎの為にしるとは。。。

信頼してきたのに、僕はどうしてもそいつが許せなくてぶん殴ったのだ。
もちろん会社の上役にも当局にも報告した。
情けない事に、上司はなんとか穏便に済ます方策を考え不問にしようとしたのだ。

こんな事は絶対に容認できない。
僕は、自分の管理責任を問われても許せない。
一つ間違えば、死ぬ人が出てもおかしくない事件だったからだ。

正しい事をみんながしなくちゃいけない。
僕は、自分に正直に生きたい。そうしなきゃいけないってずっと生きてきたんだよ。
もう正直この件で会社に絶望しかけてたんだ。



彼女と目と目があって、なんとなくお互いにちょっと気まずい空気がおきそうになった瞬間、
僕は一直線に彼女に向かって歩き出したんだ。

『ゆかりちゃんだよね?』
『はい。。。』

『僕の事、わかるよね?』
『うん、わ・わかるよ』って言いながら、彼女はなんともいいようのない困った顔をした。

『ここで働いてるの?』
『う~ん、てかここあたしの店(。・-・) 』
『▽・ェ・▽?(゚Д゚)ハァ? 』
『だから、わたしの店なのよ( ・ェ・ )』

あまりにも予想外な返事だったので言葉にならなかったんだ。
そしたら『ちょっとよってく?』って言われたから
『あ、はい』って。。。何戸惑ってんだ俺???

店に入る時に、彼女はのれんをしまった。
『今日は、もう店閉めたよ』っていきなりにこってしていうから
『あこらkなかひはかjfkz』わけわからん。。。

カウンターの止まり木に二人並んで座って呑みだしたんだ。

『あれから何年ぶり?』
『ん~、10年以上は過ぎたな~』
『もう結婚した?』
『うん、ぼうずが一人いるよ、そっちは?』

『離婚して、もうずいぶんたつわ。。。』
『(゚д゚lll)! 離婚?』
『うん、うち貧乏やったから早くに結婚したんやけど、やっぱダメやったわ。。。』

僕はまたしても言葉をなくした。

『やっぱダメって。。。どういう事なの?』
『好きじゃない人と結婚してもうまくいかないって。。。』

『好きじゃないのに結婚したの?なんでさ?』
『貧乏だったのよ、頭もあんまりよくないし、相手お金持ちだったしね。。。』

そ、そんなのおかしいよ!って言いたいとこだけどぐっとこらえた。

『で、離婚してこの店だしたんだ!?』
『うん、料理とかそういうの得意だったし、こういうちっちゃい店もつの夢だったんだ。
 あ、もうひとつ理由あってね、いつかここで再会できたら嬉しいな~って』

『再会?誰と???』
『あんた、ほんまにあいかわらず女心のわからん人やな~』
( ・ェ・ )▽・ェ・▽?( ゚д゚)ポカーン
『俺?、俺の事か?』
『普通、のれんしまったとこで気づかなアホやで(笑)』

俺、アホだったの?マジ??

『ずっとな、あんたの事だけ好きやったんや』
( ゚д゚)ポカーン
『もうな、あんたとられてもうたけどな、それでも好きや』
( ゚д゚)ポカーン
『あ、そういう意味やないで、奥さんに悪いしな』
( ゚д゚)ポカーン
『けど、わたしな、さっき外であんたにおうた時にな、泣きそうになったんや』
『なんで、泣きそうになったのさ?』

『ほら、あのな、夢かなったやんか!』
『・・・・・』
『こんな裏通りのひっそりとした店にな、あんた来るなんておもおてないもん』
『・・・・・』
『でもな、あんた来たやん』

『来たな~』
『な、もうな、わたしな、あんたの事ずっと好きやったって絶対にいわないかんって』
『いや、ちょっと待て!』

『・・待てって???・・・』
『俺もな、お前の事ずっと好きやったんや!
 けど、言われへんかった。なんでかわからへんけどな』

『もし、あんたが言ってくれはったら、違う人生やったかもしれやんな~』
『そうやな、そういう人生も悪うないな~』

『店の名前な、見た?』
『見たよ、なんで居酒屋の名前が英語なんやって不思議だった(笑)』

『primroseってな、さくら草って意味なんや』
『さくら草?』

花言葉でな、初恋って意味やねんで!』
『初恋ね~。。。』
『でな、ちょっと風吹いただけですぐにしぼむんやよ!』
『あかんやん!』

『な、まるでわたしのためにあるみたいな花やろ(笑)』
『ん~、言われてみれば。。。そんな気もしるな~。。。』
『なぁ~、ひとつだけお願いがあるんやけど』
『ひとつだけ?何?』
『名刺頂戴』
『名刺?』


その夜、家に帰ってからず~っと眠れずにいたんだ。
違った人生だったかもしれないって思うと眠れなかった。
だけど、横には愛すべき妻と息子がいる。
この人生でよかったんだ。そうだよ、俺の人生はこれでいいんだよ!

それからしばらくして会社に封筒が届いたんだ。
それは、彼女からだった。


前略、
先日は思いがけず再会しる事ができてほんとに嬉しく存じます。
ほんのわずかな時間でしたけど、ほんとに幸せな時間でした。
わたしの人生で、もっとも幸せな時間でした(^o^)
しかしながら、もうprimroseの咲く季節はすぎてしまいましたね。

貴方には、愛すべき奥様とお子様がいます。
わたしは、貴方の幸せを壊したくないのです。
だから、あのお店はもう閉めました。
もう二度とあなたとは会わない事にしますね。

夢、かなえてくれた貴方にありがとうって言いたいです。
わたしも違った人生歩めそうです。
さくら草は日陰の花で、木の根もとや岸辺などに淋しく咲くお花です。
でも、今度は、今度こそわたしは、ひなたにさく向日葵になる事にしるね!

それではお元気で。
遠いところから、あなたの幸せをねがってます。

                           ゆかり




読み終わってから思ったんだ。
これは夢じゃないのかってね。