戻ってきた理由

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まだ高校生だった僕達は競馬に夢中だった。
馬券など買えるわけでもないし、競馬場でレースを見る訳でもないけど
競馬が大好きだったのだ。

重賞レースになると教室の後ろの黒板に予想を書いたりもしていた。
先生も見てみぬふりしてくれたし、それはローカル競馬場がある街だったからかもしれない。
その頃は、3強と言われクラシックを戦う馬に僕達はそれぞれ思いを抱いていた。

僕が好きだったのは、マイナーな血統だったけどセイウンスカイだった。
キラリンはキングヘイローに入れ込んでいたな~(笑)
そして飛行機君は武豊を背にするスペシャルウィークだった。

僕達は、どれがつおいとかいう話に夢中になって楽しい時間を共に過ごす親友だったのだ。
ほんとなら女の子の話題とかをしる年頃なんだけど
結局誰にも彼女と呼べる女の子もなく、競馬にのめりこんでいった。
血統がどうとか、競馬ゲームの話とか、全てが競馬中心だった。

もちろん大学受験を控えてそれなりに勉強もしてたんだけど、
最後の追い込みの季節には、競馬界も秋のG1シリーズでもう大変だった。
そして僕達は、それぞれが志望の大学に合格しる事ができた。
僕とキラリンは地元を離れた遠くの大学に入り、飛行機君は割りと地元に近い大学だった。

みんながみんな合格したんだけど、田舎育ちだったし、不安な一人暮らしをし始めた頃
なんとなくちょっとさみしい気持ちになってきたんだな。
大学で新しいお友達もできたんだけど、どうしてもあの頃のようなしっくり感がないんだよ。
それは、そこに競馬の話がないからだと気がついてたんだ。

大学では、勉強や車や女という話題ばかりで競馬に飢えてたんだ。
そこで僕は携帯でホームページを作成したんだ。
もちろん競馬関係のだ!これなしでは人生つまんないんだから(^o^)
で、連絡を取り合ってた二人も入れて3人で夜の定時会合をチャットでしるようになったんだ。

起床して、大学行って、空いた時間にバイトして帰ってから寝るという味気ない暮らしから
高校時代の親友と競馬の話ができる時間こそが、それはそれはステキな時間だったのだ。
そのうちにそのホムペのチャットにも一人二人参加してくれる常連さんができて来た。
そうなるとみんな俄然頑張って宣伝したりして頑張りだした。

大学生活ってのは、思ってたのと違って勉強やテストがすごかったんだな。
なんかテレビドラマでみる大学生は優雅で楽そうだったけど、全然違ったんだ。
高いお金出してくれた両親の為にも、留年なんてできないし、
レポート一つ作成するのがもう必死になりだしたんだよ。

さらにいえば、あれほどもてなかった高校時代だったのに、今では彼女もできてしまったんだ。
できてしまったというのはなんでかわからないうちに彼女だったからだ!
コンパとかに借り出されるうちに、自然とそういう関係になったようだな。

ホームページにはいろいろな人が訪問して時にチャットは大いに盛り上がっ楽しい時間だった。
コンテンツも増えてきて、リンクしてくれるネット仲間というか友達もできてきた。
そこには大人な人もいて、それぞれが人生相談をしたりもしていい経験にもなったんだな。
僕は、これで満足だったのだ。それはあくまで競馬が全てじゃなくなったからだ。

だけど、そのホムペの運営方針を巡ってどうしてもケンカとは言わないまでも険悪なふんいきに
なることもあったんだ。僕はテスト前などは忙しくてチャットに出ない日も出てきた。
それは来てくれるゲストには失礼かもだけど、大学生としては勉強が本分だからね。
だけど、そういう僕のいい加減さというかアバウトさが悪かったのかもしれない。

そうして段々と疎遠になっていってしまった。
もう今はそのホムペも放置してある。
大学生活は充実してるし、バイトも忙しい。
さらにデートという楽しい、いやある意味苦痛な時間もできた。

僕は何を失ったのだろうか?
一人の友達だろうか?
だけど、大学で新しい友達はたくさんできたのだ。
高校時代の友達を二人失って、それはどれほどのものだろうか?

もう、あれから3年が過ぎて僕はもうじき就職という難題があるとこまで来た。
これでよかったのか?いや、よかったんだろうと思う。
友達二人と、競馬がなくなった。競馬▽・ェ・▽?!それはいつでもできるじゃないか?
そんなことを最近になってよく考えるようになったんだ。

そんな時に、ふっと自分のホムペを覗いてみたんだ。
もうず~っとほったらかしにしてたんだ。
ちょっと懐かしくなって来てみただけだったんだよ。

そしたら、そこには不思議なことに時々コメントがあったんだ。
そしてそのコメントに返事が書いてあるんだ。
僕は、その返事を書いてるハンドルネームを見てびっくりして
金縛りにあったようになったんだよ。

その名前は、こう書いてあったからだ。
『飛行機』ってね、
そして順番に見ていったんだよ。

なんだかもう自分がダメ親父で浮気して、
あげく女に捨てられて、しかたなしに家に戻ったら
嫁がけなげに働いて子供育ててたような感覚を覚えたんだ。

順番に見ながら、なんだか自然と僕は泣けてきたんだよ。
そしたらこんなレスを見つけたんだ。

『総長はいつになったら戻ってくるんですか?』ってね、
これの飛行機君のレスを見て、僕は涙した。
そこには、こう書いてあったんだ。

『キティちゃん、せっかく来ていただいたのに申し訳ないです。
 総長は、ちょっと風来坊な奴でして(笑)
 あてのない旅にでております。
 そのうちにきっと戻ると思うのですけど、
 いつになるかはわかりません。
 でも、僕には必ず戻ってくる確信があります。
 戻ってきたら、一緒にぶっ飛ばしてあげましょう!
 その日を楽しみにして待ってて下さいね(^o^)』

そうか、ぶっ飛ばされるのも悪くないな~(苦笑)

僕は、誰もいないチャットに入室してみたんだ。
しばらく誰も参加してない画面をボ~っと眺めていたら
あの大人の人が、ひょっこりと入室してきたんだ。

『いや~久しぶりだね』
『あ、はい、久しぶりです』

って、なんだかわけわからんうちに話し込んでしまった。
その人は、最後にこう言って落ちていったんだ。

『ほんとに友達なら、空白の時間なんて関係ないんだよ
 そうじゃないなら、ひさしぶり~、んじゃまたで終わるけど
 ほんとにお互いが友達だと認識してれば、
 離れてた時間なんて、全然関係ないんだよ』ってね。

僕は、その人が落ちた後で、その文字をず~っとみてたんだ。
思えば、僕はわがままでいい加減な奴だったんだ。
あいつらは、そういう僕を誰よりもわかってくれてたな~って。
なんか、自分のホムペって我が家だな~って思ったんだ。

やっぱり我が家はいいな~!
都会の大学生活なんかよりもやっぱり我が家だよな~!
一人でうんうんうなずきながら、僕はなにしてるんだろ?って思ったときに

閲覧さんが二人いる事に始めて気がついた。

僕は、キーボードにこう書いたんだ











『飛行機君、キラリン、
 やっと長い旅から戻ったよ!
 遠慮なく俺をぶっ飛ばしてくれたまえ(笑)』